近年、線状降水帯やゲリラ豪雨という言葉を目にすることが増えました。
大雨が降ると、大量の雨水が一度に地面や側溝等に流れ込みます。しかし、排水システムがその水をすべて処理しきれない場合があります。その結果、あふれ出した雨水で道路が冠水したり、家屋が浸水被害を受けることもあります。
神栖市の中心市街地であるかみす防災アリーナや神栖警察署周辺では、堀割川を経由し常陸利根川へと排水していた雨水が、大雨による川の増水によって排水しきれず、しばしば道路冠水をおこしてきました。
そこで神栖市では、この地域の雨水を海(鹿島港)に排水するための、大規模な雨水幹線整備事業を進めてきました。
(画像引用元:神栖市HP)
地下を走る「北公共埠頭1号雨水幹線」
2013年に工事が開始された「北公共埠頭1号雨水幹線」の整備事業では、国道124号付近から和田山緑地に沿って、北公共埠頭までの雨水管渠整備をおこなってきました。
雨水管渠(うすいかんきょ)とは・・・雨水を集めて効果的に排水するための排水管やマンホールの総称。地域の降雨量や地形、都市開発状況に沿って、適切な設計と管理がされています。
このような工事は、通常は下流から進めていきますが、今回は浸水被害が顕著な上流部から工事を開始しました。
かみす防災アリーナの北側あたり、およそ1.2kmの区間の雨水管は「推進工法」で作られ、内径1.4~2.8mの雨水管が埋まっています。「推進工法」は、推進機をコンクリート管ごと油圧ジャッキで押し込みながら掘り進んでいく工法です。
2017年には完成した一部区間で雨水の取り込みを開始し、かみす防災アリーナや神栖警察署周辺での道路冠水被害の大幅な軽減が確認できています。
2017年から工事が開始された県道粟生木崎線の区間には、「シールド工法」が用いられました。「シールド工法」は、巨大なシールドマシンによって、セグメントとよばれる鉄筋コンクリート製の部材を組み立てながら掘り進めていく工法です。およそ2kmの区間の地下8m~10mに内径2.8mの大きな雨水管が埋設されています。
(画像提供:神栖市下水道課)
2021年からは、北公共埠頭から鹿島港北航路へと雨水を放流する「北公共埠頭放流渠(ほうりゅうきょ)」の施工が始まりました。
「北公共埠頭1号雨水幹線」の施工開始からおよそ12年。この度「北公共埠頭放流渠」が完成し、2024年7月から全線での供用開始となりました。
集めた雨水を海に放流!巨大な排水路を探索
「北公共埠頭放流渠」の供用開始を前に、排水管と完成間近の放流渠の中の様子を見せていただきました。
入口は内径60cmほどの人ひとりが通れるマンホールです。地下へとはしごで下りていきます。
地下へ下りると、そこには7m×10m、最大深さ14mの巨大な空間が広がっています。これは立坑(たてこう)と呼ばれるもので、人や機材が出入りするために掘り下げられた空間です。
立杭の中は、外の暑さを忘れるくらいひんやりとしていました。
こちらは市街から集められた雨水が流れてくる排水管です。吸い込まれそうな暗闇が続いています。
この2つの大きな円形の水路が放流渠です。
放流渠とはその名の通り、集められた雨水などを川や海へ放流するための管渠のこと。内径3m、長さ46.4mの放流渠2条が地下を通っています。
この放流渠の施工には、かみす防災アリーナの北側の雨水管と同様に「推進工法」が用いられました。よく見ると、セグメントとよばれる鉄筋コンクリート製の部材を組み立てて作られた「シールド工法」の排水管とは表面が違っています。
この放流渠を通った雨水は、その先のボックスカルバートと呼ばれる四角いコンクリートの放流渠を通って、鹿島港北航路へと放流されます。
「市民の皆様の安全・安心な暮らしを支える」という思い
この放流渠を完成させる巨大なプロジェクトには、神栖市下水道課を中心に、地元企業である常総開発工業株式会社、小若建設株式会社、誠殖産工業株式会社で構成される共同企業体と、さらに多くの協力会社が工事に携わっています。
工事は常に挑戦の連続です。現場の状況や予期せぬトラブルに対応しながら、安全管理と品質管理に努めています。今回、実際に現場で働く皆さんに、このプロジェクトについてお話をお聞きしました。
――雨水幹線の設計や工事をする上で重視したことは何ですか?
「放流先である鹿島港北航路には船舶が航行しています。放流による船舶への影響を極力抑えるにはどうしたらよいか、何度も協議を重ねました。」
「また、ルート上には鹿島臨海鉄道の線路や高圧線の鉄塔もあります。それらの管理者と綿密に打ち合わせをおこなって、管理方法や施工方法を慎重に決定することに最大限の注意を払いました。」
(左から、常総開発工業㈱ 日向寺さん、小若建設㈱ 山岸さん、誠殖産工業㈱ 倉川さん)
――工事を進めていく中で、困難だったことは何ですか?
「まず挙げるとしたら、地質の問題ですね。神栖市の地質は砂質で、地下水位が高く、礫(小さい石)が混じっています。それに対応可能な工法で進めても、予期せぬトラブルで中断することが多々ありました。」
――どのようなトラブルがありましたか?
「想定した以上の巨大な礫が、推進機の排泥取り込み口に詰まってしまったことがありました。また、地質が弱い箇所に泥水が流出してしまい、その事象を止めるために地盤改良が必要になったりと、困難に次ぐ困難が続きました。」
――工事現場ではどのようなことを心がけていましたか?
「工事現場では安全が最優先です。事故を未然に防ぐために、会社の枠を超えてコミュニケーションを取りながら工事を進めることが非常に重要だったと思います。無事に作業を終え、完成した時の喜びは何にも代えがたいものです。」
日常生活の中で、私たちがあまり目にすることのない雨水管渠。しかしそれらは、工事に尽力された皆さんの思いとともに、縁の下の力持ちとして私たちの暮らしを日々支えてくれています。
最後に、個人で出来る浸水対策についてまとめました。私たちにできる身近な浸水対策を日頃から心がけていきましょう。
・自分の家に降った雨は、浸透を基本として、下水道に流す水量を出来るだけ減らす。
・台所から油を流さない。
・落ち葉やゴミを道路側溝や集水ますに入れない。
・道路側溝やそこにつながる排水管の清掃をおこなう。
広報かみすで特集されました
広報かみす2024年8月1日号で、工事に使用された工法の特徴や、一大スポットに携わった人たちの思いを紹介しています。
ぜひご覧ください。