皆さんは、このように竹で囲われた施設を見たことはありませんか?
これは「楽屋(がくや)」といって、中ではセンリョウが栽培されています。「千両役者が控える場所」との意味も込め、「楽屋」と呼ばれています。
神栖市の「市の花」でもあるセンリョウは、緑色の葉に鮮やかな赤い実をつける植物で、正月の縁起物としても知られています。そのセンリョウ生産量日本一を誇るのが神栖市なのです。
ふしぎなつくりのセンリョウの花
6月、神栖市息栖にある「茨城県農業総合センター鹿島地帯特産指導所」に伺いました。
ここは鹿島南部地域の地域特性を活用した施設野菜・花きの研究施設で、センリョウ栽培の試験研究もおこなわれています。
また、鹿島地帯特産指導所には、鹿行農林事務所経営・普及部門(鉾田地域農業改良普及センター)の駐在があり、研究と普及が連携して活動しています。
センリョウが栽培されている楽屋に案内していただきました。こちらではまだ芽が出たばかりのものから、1mほどの高さまで成長したものまで栽培されています。
楽屋に一歩入ると、天井まで囲った竹すだれと鮮やかな緑色の葉に目を奪われました。中は思いのほか明るいですが、強い日差しが遮られている分、少し涼しく感じます。
センリョウや楽屋について教えてくださったのは、研究員の渡辺さんと普及員の村田さんです。
「ここではさまざまな条件でセンリョウ栽培の試験がおこなわれています。ちょうど今の時期は、センリョウが花を咲かせていますよ。」
しかしセンリョウの木を見ても、黄緑色や白色の小さなつぼみのようなものがあるだけで、花びらは見当たりません。
「これが”センリョウの花”なんです。センリョウの花には雌しべと雄しべがあるだけで、花びらは無いんですよ。」
よく見ると、黄緑色の雌しべに白い雄しべがくっついています。花びらや萼(がく)はありません。とてもシンプルでふしぎなつくりですね。
雄しべにある黄色い葯(やく)の中には花粉が入っていて、これが裂けて風や虫によって受粉するのだそうです。
やがて緑色の実がつき、冬になって赤く色づくと、皆さんが良く知る「センリョウ」の姿になります。
11月下旬になるとセンリョウは出荷のピークとなり、市内のセンリョウ農家も一年でいちばん忙しい時期を迎えます。
鹿島地帯特産指導所では、どんな研究をしているの?
鹿島地帯特産指導所の広い敷地には楽屋や畑、農業用ハウスなどがあり、現在はセンリョウのほか、神栖市が日本一の出荷量を誇るマツやピーマンといった「地域密着型」の試験研究をおこなっています。
土壌病害に対する『センリョウのプランター栽培』の試験研究もその一つです。
「同じ植物を同じ土壌で続けて栽培する『連作』によって土壌病害は引き起こされます。センリョウ農家は土壌病害が発生するたびに、別の農地に楽屋を移さねばなりません。これは農家にとって大きな負担になります。」
「プランター栽培なら地植えに比べて土壌の消毒や交換が簡単にできるため、病気の拡散リスクを抑えることが可能です。」
また、楽屋の資材についての試験研究も現在すすめられています。
強い日差しや強風に弱いセンリョウは、すだれ状の竹材で囲われた楽屋で栽培されています。しかし、国内の竹すだれ製造は減少しており、外国産竹すだれは価格が高騰。竹すだれの楽屋を維持していくことはセンリョウ農家の悩みでもあります。
「これらは竹すだれの代わりに農業用ネットを使った簡易的な楽屋です。資材ごとの特性の違いとセンリョウの生育への影響について、今後検討を重ね試験をおこなっていきます。」
(黒いネットは遮光性に優れるが、熱を伝える赤外線を吸収しやすいため遮熱効果は低い。)
(白いネットは遮光性は低いが、赤外線を反射する性質があるので熱はこもりにくい。)
鹿島地帯特産指導所では、定期的に生産者や関係機関と検討会を開いて、研究成果の提供や意見交換もしているそうです。
消費者と生産者のニーズを踏まえた栽培技術の開発で、高品質で安定した ”儲かる農業” の実現へ。今後も産地の発展につながる試験研究をおこなっていくそうです。
茨城県農業総合センター鹿島地帯特産指導所
茨城県神栖市息栖2815 MAP
電話番号 0299-92-3637
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